コーポ啓21号室~偽コンビクトの日々戯言

50歳を過ぎてもまだまだぼやくぜ

20年前のこと その三

ステージは薄暗くて、見たこともないようなでかいスピーカーが何段も積まれてた。いったいこれは何なんだ、と。そのでかいスピーカーから小さな音でなんか渋い音楽がかかってた。当時はそれがなんだかはわからないので覚えてないけど、きっとイカしたブルースでもかかってたのだろう。そして、ライトが突然ステージを照らして華やかな音楽に乗って4人が出て来た。そのとき会場の人間が全員立ち上がったのを覚えてる。僕も「え?立つの?」ってな感じであわてて立った。周りの女の子たちはもうキャーってなもん。そして赤いジーンズのヒロトが言った!
「ほならはじめます。未来は僕等の手の中!」
もうそっからは興奮してあんまり覚えてないんだ。馬鹿でかい音がドカドカなって、ヒロトは首がもげちゃうんじゃないかってくらいガンガン首振ってさ。なんとなく覚えてるのはヒロトマーシーも河ちゃんもとにかく愛想がなかったことくらい。後に彼らのライヴには何度か足を運んだけど、あんなにピリピリしてたのはあの時だけだったね。聴いたことがない曲も何曲かやってたね。その中でも、「オマエの宇宙に入れてくれ」って歌ってた曲がとてもいいなぁと思ったのを覚えてるよ。

あっと言う間の時間だった。気がついたらライヴが終わって、回りの人たちが帰りはじめてた。近くの男の子が「ダンスナンバー、やんなかったなぁ」って言ってたのが妙に心に残ってるな。あー、ダンスナンバーやんなかったっけ、なんて。どの曲をやろうがもうどうでもよかったのよ、その時は。あまりにも衝撃であまりにも興奮してあまりにも感激してさ。もう誰とも口が聞けないくらいの状態だった。生まれて初めてってくらいの大音量で耳鳴りは止まらないし。凄くボンヤリした状態で夜道をフラフラと家路に着いたんだ。

もうね、次の日からしばらくはどうしようもなかったね、俺。耳鳴りは次の日も止まらないし、ずっとボンヤリして、気がつきゃずっとブルーハーツのテープばっかりかけて。素晴らしかったってのを人に伝えたいんだけど、上手く言葉にできなくて。思えば、あの時はじめて僕はロックンロールを捕まえたんだと思う。

もう少しだけ続く。