コーポ啓21号室~偽コンビクトの日々戯言

50歳を過ぎてもまだまだぼやくぜ

メガネッシュエレジー

ラジオの解説者の声があっという間に絶叫に変わり、そして沈黙が流れた…。僕達が愛してやまない男、真壁賢守ことメガネッシュが奈落の底に突き落とされた瞬間の話だ。

僕は彼の活躍に心からの痛快さを感じていたのだ。全国的な有名人でありヒーローでもある背番号1、ダルビッシュ有の陰に隠れた男。それでいて彼に妬みの感情一欠片さえも見せず、背中に重い番号を背負って淡々と投げる彼の姿に、全国の野球ファンはきっとダルビッシュの才能の輝きよりも尊いものを感じていたに違いないのだ。だからこそ彼は本人さえも預かり知らぬ間に、全国のコアな人々の英雄にまでなってしまっていたのだ。弱冠18歳の彼が!背番号も18番の彼が!

そう、あの去年のたいして暑くもない夏に、彼はダルビッシュの後始末という非常に割の合わない場面で登場したのだ。そして見事凌いで見せた。結果、東北高校は決勝まで勝ち進んだ。残念ながら最後は常総学院に敗れてしまったが、僕は見たいと思った。彼が甲子園で優勝する姿をだ。明らかにダルビッシュの日陰者である彼が報われる瞬間をだ。そして、このセンバツは、その大チャンスのはずだった…。

僕はその瞬間を、取引先に向かう車のラジオで聞いていた。4点差を守りきれずに沈んでいく彼に居たたまれなくなった。ハンドルを握る手からだんだん力が抜けていくのがはっきりと分かった。いつもダルビッシュの陰に隠れている男がはじめて主役になった瞬間が、こんな残酷な場面とは…。あまりのことに胸が詰まって頭が真っ白になってしまった。それほどまでに残酷な瞬間だった。

ラジオのアナウンサーの声は途切れ途切れになってしまっていた。
「なんと言っていいのかわかりませんが…、これが甲子園なのでしょうか…、真壁君は本当によく投げていました、しかし…」

僕はラジオの電源を切った。

メガネッシュこと真壁くんよ、まだチャンスはあと一回ある。きっとまた夏に甲子園まで出てきて欲しい。今回の敗戦で沈むことなくまた全国の野球ファンを癒して笑わせて感動させて欲しい。弱冠18歳にはあまりに重すぎる試練だがなんとか乗り越えて欲しい。君は全国の日陰者の英雄なのだから。